精神科訪問看護全般
2024-10-09
「不安」の正体とは?
不安という感情は一見ネガティブなもののように思えますが、人間の生存や成長において重要な役割を担っています。
役割①
自己防衛:不安は危険やリスクに対する警告として機能します。例えば、将来に対する不安があれば、それなりに備えるための行動準備ができるので、リスクを回避する手段として不安が役に立ちます。
役割②
モチベーションの源:日本文化では、不安が「頑張る原動力」とも捉えられます。 不安を感じるからこそ、準備をし、努力を重ねて問題を解決しようとする姿勢が生まれます。
そういはいっても不安ばかりを感じていては毎日穏やかには過ごせませんよね。では、脳科学的にみると不安とは脳の中でどのような現象が起きているのでしょうか。
脳科学的に「不安」は、脳内の特定の領域や神経伝達物質が関与する複雑な心理状態として捉えられています。偏桃体が活性化して、不安感情が強化されていると言われています。
≪脳科学的な視点から見た不安の科学≫
■扁桃体(へんとうたい)
扁桃体は、脳の中で感情処理に関与する領域の一つであり、不安や恐怖に対して重要な役割を果たしています。偏桃体が脳の他の部分に情報を送るのですが、この反応が不安や恐怖を感じさせる一因です。扁桃体が過剰に活動すると、過度な不安や恐怖が生じます。不安を感じやすい状態にあるということは、扁桃体の活動が過剰になっている状態であると言えます。
■前頭前野(ぜんとうぜんや)
前頭前野は、合理的な思考や計画、意思決定に関与する領域です。 不安を感じた際、前頭前野は扁桃体の活動を抑制し、合理的に対処しようとします。例えば、不安の原因を論理分析的に整理し、必要に応じて適切な行動に置き換えようとしてくれるのがこの領域の働きです。脳疲労が貯まるとこの機能が低下し、感情のコントロールがしにくくなってしまうことがあります。
■海馬(かいば)
海馬は短期記憶から長期記憶へと記憶を繋げる、中期記憶を司る脳の領域であり、いわば記憶の仕訳をしていいるところです。過去の恐怖体験や不快な出来事は海馬で処理されています。特にトラウマや過去のストレスフルな経験が海馬に記憶されている場合、それが新しい状況下で因子となって働きかけ、強い不安を引き起こす可能性があると言われています。
■神経伝達物質
不安に関与する主な神経伝達物質として、セロトニン、ドーパミン、ノルアドレナリン、GABA(ガンマアミノ酪酸)などが挙げられます。
〇セロトニン:不安やうつうつに関わっており、セロトニンの不足は不安症状の増加に関連していると言われています。セロトニンを増加させる薬(抗うつ薬など)は、不安の軽減に用いられます。
〇ノルアドレナリン:人間が強いストレスに晒され、危機を感じた時に「闘争か逃走か(fight or Flight)」と判断して行動する時に働くホルモンです。 不安を感じるとノルアドレナリンが分泌され、心拍数の上昇や注意力の増加など、身体的なストレス反応をおこします。現代の文化的社会においては、野生動物と鉢合わせになって闘争か逃走かなんてことはほぼありませんね(;'∀') ですが、現代社会では仕事や対人関係、環境因子などからの複合的な過度のストレスが常態化していると言われており、ストレスフルな生活の中でノルアドレナリンが過剰に分泌され、ホルモン分泌全体のバランスを欠く事もあると言われています。
〇GABA:抑制的な神経伝達物質であり、不安興奮や鎮める役割があります。GABAの活動が低下すると、不安やストレスが強くなりやすいことが知られています。 GABAの効果を高めることができると不安を軽減します。
■慢性的な不安と脳の変化
慢性的な不安やストレスが続くと、脳に物理的・機能的な変化が起こります。特に扁桃体や前頭前野、海馬などに影響が及びます。
〇偏桃体
慢性的な不安状態が続くと、扁桃体が過剰に反応しやすくなります。偏桃体は、本来危険や観点に対して迅速な反応を考えるための脳の部位ですが、慢性的なストレスにさらされると、脳が日常的な刺激に対しても過敏に反応するようになります。これにより、これらの細やかな出来事や通常ではストレスを感じないような状況にも不安を感じやすくなります。
〇前頭前野の機能低下
長期的なストレスや不安は、前頭前野の働きを弱め、合理的な判断や感情コントロールが困難になります。これにより、ストレス管理や不安の対処がしにくくなります。
〇海馬が萎縮する
慢性的なストレスは、海馬が萎縮する原因となることが示されています。これにより、記憶や学習能力に悪影響が出るだけでなく、過去のストレス体験がより強い不安の感情を引き起こすことに繋がります。
まとめ
不安とは人間の成長や生存に不可欠な感情。現代社会においては不安が不安を呼び、生活に影響を及ぼすことがある。特に極度の不安状態を経験した場合はPTSD、パニック障害などの症状に繋がることもある。
では、そのような状態に陥らないために、自分たち自身できることはあるのでしょうか?
次に対策についてまとめてみました。
◎瞑想やマインドフルネス
瞑想やマインドフルネスは、脳内のストレス反応を抑え、前頭前野の活動を高める効果があります。これにより、感情のコントロールが改善され、不安が軽減されることが期待できます。
◎運動
運動は、セロトニンやエンドルフィンなどの神経伝達物質を増加させ、脳の構造を健全に保つ効果があります。定期的な運動は、不安や抑うつの軽減に効果があることが広く認められています。
◎認知行動療法(CBT)
認知行動療法は、不安を抱えやすい思考パターンに気が付くことができる心理療法です。 思考の癖を認知して、理性的に判断する癖をつけることで脳の前頭前野の働きや感情や思考の制御を助け、不安の軽減になるとされています。
いずれも自分一人でやり始めることも、やり続けることも難しい対処方法ですね・・・・。
聴き上手では、精神科訪問看護師が定期的にご自宅に伺い、それぞれの生活に基づいた対処方法を一緒に考え、それが継続できるようにサポート指せていただきます。サポートが必要と感じておられる方はまずはお電話でお気軽にお問い合わせください。
【この記事を書いた人】
株式会社真織 代表取締役 池田真奈🐭
看護師歴22年
2009年~精神科単科病棟勤務
2013年~精神科特化訪問看護ステーションミント
2020年~障害者グループホームレア
2024年~精神科特化訪問看護ステーション聴き上手
(趣味)
絵を描くこと・旅行